GROWTHAX
  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. エンジニアリング
エンジニアリング

BtoBのメールは届きにくくなった。AIで送る量を増やす前に

米Validityの2026年版調査で、メール全体の受信箱到達率は87.2%に上がりました。一方、BtoBの宛先は下がり、企業のスパム対策製品を通る場合は79.0%です。AIで送信量を増やす前に、届いているかを測る必要があります。

文:Growth AX 編集部 読了 3分

AI SDRの導入で、営業メールの送信量は一気に増やせるようになりました。ところが、そのメールが相手の受信箱に届いているかは別の話です。メール配信の計測を手がける米Validityが2026年3月に出した調査では、全体の到達率が上がる一方、BtoBの宛先だけは下がっていました。

全体は改善、BtoBは悪化

Validityの「2026 Email Deliverability Benchmark Report」は、同社の顧客が配信テストに使う検証用アドレスのデータを集計したものです。2025年の世界の受信箱到達率は平均87.2%で、前年から3.7%上がりました。迷惑メールフォルダ行きが6.6%、どこにも届かなかったものが6.1%です。

改善の背景として、同社はGmail、Yahoo、Microsoftが大量送信者に課した要件を挙げています。送信元の認証(DMARC)、ワンクリックで配信停止できる仕組み、迷惑メール報告率の低さ。以前から推奨されていたことが義務になり、送り手の質が上がりました。世界の送信量は、この調査で初めて前年を下回っています。小さく絞った配信に移った送り手が多いとの見立てです。

ところがBtoBは逆の動きでした。企業のメールの多くは、Microsoft 365やGoogle Workspaceのようなメール基盤で受けます。ここを宛先にした到達率は83.0%で、前年から1.3%下がりました。Proofpointなど企業向けのスパム対策製品を通る場合は79.0%で、下げ幅は5.8%です。多くの企業は基盤と対策製品の両方を使うため、BtoBの送り手は二重の関門をくぐることになります。

なぜBtoBだけ届きにくいのか

理由の一つは、宛先の構成です。Validityによると、企業のメール基盤はMicrosoft 365が60.3%、Google Workspaceが35.9%を占めます。企業向け基盤の迷惑メール判定は、個人向けのものと大筋で同じ仕組みだと同社は書いています。その個人向けのMicrosoft(OutlookやHotmail)は、大手の中で最も届きにくい相手です。2025年の到達率は77.4%で、15.1%が迷惑メールフォルダに入りました。

もう一つは、認証が途中で崩れることです。企業のスパム対策製品を通ると、メールは別の経路から転送されます。そのとき、送信元の認証結果が引き継がれず、正しいメールでも疑われることがあります。Validityは、途中のサーバーが認証結果を引き継げる仕組み(ARC)の導入を勧めています。

基準も厳しくなりました。迷惑メール報告率は以前なら0.2〜0.3%未満が目安でしたが、今は0.1%未満が期待される水準だと同社は書いています。さらに受信箱の側も変わっています。Gmailは2026年に生成AIのGeminiを組み込み、利用者の反応をもとに重要なメールを上に並べる方向へ進みました。読まれないメールは、届いても目に入りにくくなります。Validityは、Gmailの到達率が2026年は下がる可能性が高いと見ています。

「配信成功」は届いた証拠ではない

この調査で押さえたいのは、配信ツールの画面に出る「配信成功率」と、受信箱への到達率は別物だという点です。Validityの整理では、配信成功率は送信数から不達を引いただけの数字です。相手のサーバーが受け取ったことしか示しません。迷惑メールフォルダに入っても「成功」に数えられます。

AI SDRで送信量を何倍に増やしても、届く割合が下がれば成果は比例しません。送信量が急に増えた送り手は、受信側に警戒されます。量を増やす施策と、届く状態を保つ施策は、同時に設計する必要があります。

日本の事業責任者が、明日考えること

売上10〜100億円規模のBtoB事業で、MAから送るメルマガや営業メールの成果が落ちてきた。そう感じたら、まず原因を内容ではなく到達で疑ってください。

最初に確かめるのは、送信ドメインの認証です。SPF、DKIM、DMARCが設定されているか。情報システムの担当者に聞けば、すぐに分かります。設定がないなら、AIの導入より先に手を付ける項目です。

次に、配信成功率ではなく到達率を測ります。日本の取引先もMicrosoft 365を使う企業が多いはずです。自社のメールが相手の受信箱に入っているか、迷惑メールフォルダに入っているか。検証用のアドレスに送って確かめる方法が使えます。

3つ目は、リストの手入れです。古い名刺や、何年も反応のない宛先に送り続けると、不達と迷惑メール報告が増え、送信元の評価が下がります。反応のない宛先を定期的に外す。展示会の名刺は早めに使う。それだけでも差が出ます。

最後に、AI SDRを入れるなら、送信量の上限と増やし方を最初に決めてください。到達率と迷惑メール報告率を週ごとに見る担当を置き、悪化したら量を止める。送る力が上がった今、届ける力の管理が成果を左右します。