BtoBマーケティングの成果を、リーチやクリック数で測る時代が終わりつつあります。LinkedInは2026年6月、AIが買い手の調査を担うようになった今、測るべきは「どれだけ見られたか」ではなく「どれだけ選ばれやすいか」だと提言しました。同社はこれを「Buyability(選ばれやすさ)」と名付けています。
何が起きているか
提言を書いたのは、LinkedInでマーケットプレイス・イノベーションを率いるMimi Turner氏です。同氏は3月、Advertising Week Europeでも同じ主張を語り、Marketing Weekが報じました。
前提にあるのは、買い手の調べ方の変化です。LinkedInのブログは6senseの2025年の調査を引き、購買グループの94%が営業と話す前にChatGPTやGeminiといった大規模言語モデルを使うと書いています。買い手は自分の細かな要件をAIに投げ、候補を絞ってから営業に会います。
そのうえでLinkedInが示したのが、知られていることの重みです。Marketing Weekによると、LinkedInのB2B InstituteがBain & Company、調査会社NewtonXと米英・西欧の500人超の上級バイヤーに行った調査で、購買グループの全員が最初からそのブランドを知っている場合、買われる確率は20倍以上になりました。LinkedInはまた、法務・財務・人事・購買といった「隠れた買い手」を含む750人のBtoBバイヤーへの調査も行っています。
なぜ「見られる」では足りないのか
Turner氏の議論の中心は、AIの性質です。同氏はブログで「AIは発見の仕組みではなく、取り出す仕組みだ」と書きました。AIは新しい会社を見つけてくるのではなく、すでにWeb上で語られている評判を集めて答えを作ります。
買い手が選ぶ基準も、機能の優劣だけではありません。LinkedInの研究は、BtoBの購買で最も重い感情面の要因を「その選択を社内で説明できるか」に置きました。買い手は、失敗したときにも正当化できる選択をします。
ここで2つの話がつながります。買い手の安心をつくるものと、AIが答えに使うもの。LinkedInによれば、どちらも同じ4つの材料でできています。顧客の実績、同業者の推薦、専門家の評価、そして買い手の状況に合っているかどうかです。広告で露出を増やしても、この4つが薄ければ、AIの答えにも買い手の稟議にも残りません。
Marketing Weekによると、LinkedInの調査は、AI中心の世界ではWebサイトへの流入が減る可能性がある一方、コミュニティや同業者のつながりが中心の場は強さを保つとしています。従来のファネルに代えて、評判が評判を呼ぶ循環を描くべきだというのが同氏の主張です。Advertising Week Europeの講演では「AIの時代、可視性はもろい」と語っています。
なお、この提言はLinkedInという、同業者のつながりを売る会社の主張です。結論が自社の事業に有利な形になっている点は割り引いて読む必要があります。それでも、AIが既存の評判を集めて答えを作るという指摘は、他の調査とも合っています。
日本の事業責任者にとっての意味
日本のBtoB事業は、もともと紹介や業界内の評判で回ってきました。その意味で「選ばれやすさ」は新しい考え方ではありません。変わったのは、その評判がWeb上に書かれていなければ、AIの答えに出てこない点です。
明日から考えるべきことは3つあります。
1つ目は、導入事例を「似た会社」の言葉で書くことです。業種、規模、導入前の課題が読み手と近いほど、買い手は社内で説明しやすくなります。売上高や拠点数まで書けると、AIも状況の近さを判断できます。
2つ目は、隠れた買い手に向けた材料を用意することです。経理が見る費用の考え方、情報システム部門が見るセキュリティの説明、法務が見る契約の条件。営業が商談のたびに個別に送っているものを、公開できる形に直します。
3つ目は、測る物差しを1つ足すことです。MAのリード数やWebの流入数に加えて、SFAの受注案件に「最初に何で知ったか」「購買に関わった部署はどこか」を記録します。数か月分たまれば、自社がどの経路で選ばれているのかが見えてきます。リーチの数字が落ちても、選ばれる理由が増えていれば、それが進んでいる証拠です。




