価格表は、一度決めたら数年使うもの。その前提が崩れています。100人を超えるSaaS・AI企業の創業者に価格設計を助言してきたKyle Poyar氏は7月22日、Growth Unhingedで「以前は18か月に一度価格を見直せばよかった。いまは6か月で古くなりうる」と書きました。
何が起きているか
Poyar氏が2026年4〜5月に230社超のBtoBソフトウェア・AI企業に行った調査では、4社に3社がこの1年で価格か販売パッケージを変えていました。変更が最も多いのは、売上規模の大きい企業です。同氏は調査結果を「誰も自社の価格に満足していない」と要約しています。最大の悩みは、既存顧客からの追加売上が足りないことでした。定額制と席数課金の企業で、特にこの声が強く出ています。
課金の形も動いています。基本料と従量を組み合わせるハイブリッド型は37%で、1年前の25%から増えました。AI機能の課金に「クレジット」を使う企業は29%。さらに33%が6〜12か月以内の導入を予定しており、ARR5,000万ドル超の企業では約半数が2026年中に始める計画です。顧客に複数の課金方式から選ばせる企業も、21%から29%に増えました。
背景には、AI製品の採算の違いがあります。調査では、AI製品の粗利目標の中央値が約50%でした。従来型SaaSの70〜80%超とは、費用の構造が違います。回答企業の70%は、顧客がAIに払うお金は顧客の既存のIT・ソフトウェア予算から出ていると答えました。
大手も例外ではありません。Poyar氏は、Salesforceが2年足らずで5つ目のAI課金方式(解決1件ごとの課金)を発表したことを挙げています。
なぜ寿命が縮んだのか
Poyar氏の整理では、どの課金方式にも弱点があります。定額制は追加販売を阻み、席数課金は先々まで持ちこたえにくく、ハイブリッド型は説明が難しい。トークン単位の課金は、大企業がトークンを大量に使う運用から離れ始め、単価だけの勝負になりつつあります。完成形がないまま、AIの原価、競合の価格、顧客の使い方が同時に動いています。価格の寿命が短くなるのは当然の帰結です。
同氏は、価格を変えるべきかを確かめる問いを示しています。公開部分で読めるのは2つです。
1つ目は「何を最優先するのか」。成長か利益か、中小企業か大企業か、新規獲得か既存拡大か。目標が変われば、合う価格も変わります。同氏は、経営陣が3〜5個の目的をそれぞれ非公開で順位付けし、答えを突き合わせる手法を勧めています。順位のずれが、価格をめぐる議論が噛み合わない原因です。
2つ目は「価格が理由で失注しているか」。同氏の目安では、価格を理由とする失注が商談全体の2割程度なら健全です。それより少なければ安すぎる可能性があり、4割を超えたら市場が変わった兆候と見ます。
日本の事業責任者が明日考えること
売上10〜100億円規模の日本のBtoB事業では、価格改定は数年に一度の大仕事になりがちです。改定の議論は「値上げできるか」に寄り、何を最優先するかの合意がないまま始まります。
明日からできることは3つです。
まず、SFAの失注理由を点検します。「価格」が選択肢にあるか。あっても、営業が便宜的に選んでいないか。失注のうち価格が理由の割合を、四半期ごとに出せる状態にします。2割、4割という目安と比べるだけで、価格の議論に事実が入ります。
次に、経営陣で最優先の目的を個別に書き出し、突き合わせます。社長は既存顧客の拡大を、営業責任者は新規獲得を最優先と考えている。こうしたずれは、口頭の会議では表に出にくいものです。
最後に、価格を点検する日を決めます。改定するかどうかは別として、半年に一度、失注理由、既存顧客の売上推移、競合の価格を並べて見る場を定例にします。価格は決めて終わりではなく、回し続ける仕組みに変わりました。




