既存顧客への追加提案は、いつするのが効くのか。Growth UnhingedのKyle Poyar氏が9月30日、ChartMogulのデータを使ってこの問いに答えました。結論は明快です。顧客が最も「追加」に応じやすいのは、契約した直後の30日間でした。
何が起きているか
分析の元は、非上場のソフトウェア企業4,029社、合計1,050万件の購入データです。2025年8月から2026年6月に初めて購入した顧客を追い、2026年7月までの動きを見ています。
利用者の追加(同じプランのまま人数を増やす)は、契約1か月目が0.83%でした。2か月目に0.37%、4か月目に0.19%、11か月目には0.09%まで下がります。上位プランへの移行も同じ形で、1か月目0.75%、2か月目0.32%、4か月目0.16%と落ちていきます。Poyar氏は、契約後30日の顧客は4〜11か月目に比べて最大10倍、提案に応じやすいとまとめています。
もう1つの山は更新時期です。1年目に起きた上位プランへの移行のうち、約40%は12か月目の更新のタイミングでした。
製品の性格による差も出ています。利用者の追加は、従来型のSaaSが、AIを前提に作られた製品(以下AI製品)の約2倍。上位プランへの移行も、1か月目はほぼ同じですが、その後はSaaSが続き、AI製品は伸びません。通年ではSaaSが3倍近く高い結果でした。同氏は、AI製品は個人には早く価値を届けるものの、チームの他の人が加わる理由をまだ作れていないのではないか、と見ています。人数無制限のプランといった課金の違いがどこまで効いているかは分からない、とも書いています。
解約した顧客の戻り方にも型がありました。解約1か月目に2.67%、2か月目に1.24%、3か月目に1.14%が戻り、3か月で5%を超えます。AI製品では解約者の10%近くが戻っていました。
なぜ契約直後なのか
契約直後の顧客は、導入を決めた理由をまだはっきり覚えています。社内で使い方を広げる意欲も高い時期です。ところが多くの企業は、契約した途端に連絡を止めます。Poyar氏は「多くの企業は顧客になった瞬間に黙る。もっと買う気がいちばん高いときに」と指摘しています。
解約についても同じです。同氏は「解約は別れとは限らない。また会おう、である」と書きました。プロジェクト単位で使われる製品や、AI製品への期待が冷めきらない市場では、解約者は将来の顧客候補です。
注意点もあります。データの大半は月額100ドル未満のセルフサーブ型の購入です。営業が介在する高単価の契約に、数字をそのまま当てはめることはできません。また、Poyar氏はデータ提供元であるChartMogulの社内アナリストを務めています。
日本の事業責任者が明日考えること
売上10〜100億円規模のBtoB事業では、契約は営業が取り、受注後は導入支援に引き継ぐ形が一般的です。この分業そのものは正しい。問題は、受注から最初の1か月に「拡大」を担う人が誰もいないことです。営業は次の新規案件へ移り、CSは初期設定の支援で手一杯になります。
明日から見直せることは3つあります。
1つ目は、契約後30日の設計です。導入の初期段階で、他部署や関係者を招く場面を意図して作ります。キックオフに次に使いそうな部署の責任者を呼ぶ、利用状況を共有する定例を早めに置く、といった打ち手です。SFAに「受注後30日の接点」を記録する欄を設ければ、空白期間が見えるようになります。
2つ目は、更新月の使い方です。1年目の上位移行の4割が更新時期に集中するなら、更新の打診と上位プランの提案は1回の場にまとめるべきです。更新を事務手続きとして扱っている会社ほど、取りこぼしが大きくなります。
3つ目は、解約顧客の扱いです。解約をSFAの「終わった顧客」にしないこと。解約理由ごとに分け、1日後、30日後、60日後に連絡する流れを組みます。データを残したまま戻れる状態にしておくことも、Poyar氏の提案の1つです。高単価の契約では数字の水準こそ違いますが、「最初の30日」と「更新月」の2点に打ち手を寄せる考え方は、そのまま使えます。




