開発基盤を提供する米Vercelが、インバウンドのリード対応をAIエージェントに置き換えた経緯を公開しました。注目したいのは結果の数字より、作り方です。AIを入れる前に、まず人の仕事を手順として書き出しています。
10人の仕事を、1人と年5,000ドルで
SaaStrが2026年7月に掲載した、VercelのCOOジーン・デウィット・グロッサー氏へのインタビューによると、同社は2025年6月にGTMエンジニアリングのチームを作りました。最初に手がけたのが、問い合わせてきたリードを調べて見極めるエージェントです。
米国でこの仕事に就いていた10人は、1人になりました。欧州とアジアの分は、1人の2割ほどの稼働で見ています。インフラとAIの利用料は年に約5,000ドル。保守にはエンジニア1人の2割ほどの時間を使っています。外れた人は、より価値の高い役割に移ったと説明されています。
数字は同社の自己申告です。ただ、SaaStrの記事が多くの紙幅を割いているのは、その手前の工程でした。
観察し、手順に固め、並走させる
組んだのは3人です。GTMエンジニア、データサイエンティスト、そしてその業務で一番成果を出していた担当者。トップの営業担当です。
GTMエンジニアは、その担当者の作業を数日かけて横で見ました。LinkedInで人を調べ、企業サイトを見て、使っている技術を確かめ、CRMの履歴とSlackのやり取りを読む。確かめている先の一つ一つを、手順として書き出しています。
次に、その手順を、AIを使わずに動く処理として組みました。どの情報をどの順番で取りに行くかを、決まった流れとして固めたのです。AIが加わったのは、その後でした。
本番に入れてからも、すぐには人を外していません。6週間、エージェントは人と並走しました。トップ担当者がすべての出力を確認して直し、直すことがなくなるまで続けています。グロッサー氏はこの進め方を「人の仕事を書き出し、それを仕組みに落とし、人を超えるまで検品し、それから人を外す」とまとめています。
同社は同じ型で、ほかの業務にも広げています。Slackで質問するとデータを集計して返す分析エージェントや、サポート案件の93%を処理する対応エージェントです。
なぜ、この順番が効くのか
AIに丸ごと任せると、どこで間違えたかが分かりません。決まった手順の上にAIを載せれば、外れた箇所が手順のどこかで特定できます。並走の期間に、トップ担当者の判断がそのまま検品の基準になる点も大きい。
グロッサー氏は、もう一つ条件を挙げています。データの土台です。エージェントの出来は、読ませるデータの質で決まる。社内の知識を整理し、言葉の定義をそろえておくことが前提だと話しています。作ったあとも、誰かが定期的に出力を見ること。エージェントは気づかないうちにずれていくからです。
日本の事業責任者が、明日考えること
売上10〜100億円規模の日本のBtoB事業で、この事例をそのまま真似る必要はありません。GTMエンジニアがいなくても、借りられる部分があります。
一つ目は、対象の選び方です。毎日繰り返す、成果を左右する、手順を言葉にできる。この3つがそろう仕事から始めます。問い合わせの一次調査や、展示会リードの選別が当てはまりやすいでしょう。
二つ目は、トップの担当者を作る側に入れることです。その人の時間を数日もらい、画面の動きを横で記録する。暗黙の判断を手順に起こす作業は、外部に任せても自社でやっても、ここが出発点になります。
三つ目は、並走の期間を予算と計画に入れておくことです。Vercelでも6週間かけています。最初から人を外す前提で計画すると、検品の基準を持たないまま本番に入ることになります。
人を減らすかどうかは、その後で決めれば足ります。先に手に入るのは、属人だった仕事の手順書です。




