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データ・基盤

HubSpotが賭けたのは、エージェントより「文脈」だった

HubSpotは2026年9月の年次イベントで、AIエージェントに渡す自社情報をまとめる「Growth Context」を製品の中心に据えました。エージェントの性能より、何を読ませるかが成果を分けるという判断です。

文:Growth AX 編集部 読了 3分

HubSpotは2026年9月16日、ボストンで開いた年次イベント「Unbound」で秋の製品群を発表しました。目立つのは新しいエージェントではありません。エージェントに渡す自社の情報をどう集め、どう保つか。同社はそこを「Growth Context」と名付け、製品の土台に置きました。

発表の中心は「文脈を置く場所」

diginomicaの記事によると、HubSpotは今回を「最も土台に関わる製品リリース」と位置付けました。中心にあるのがGrowth Contextです。HubSpotの製品基盤「HubSpot Customer Platform」に蓄えた、事業・顧客・チームの情報全体を指し、エージェントとアシスタント機能「Breeze Assistant」が読み込みます。

その情報をまとめて管理する画面が「Context Home」です。並ぶ項目は、事業の概要、ブランド素材、使っているツール、競合、製品、理想の顧客像(ICP)、ペルソナ、営業手法(限定公開)、独自の情報、アップロードした資料。HubSpotは、足りない項目や改善点も提案します。

営業向けの変更も、文脈の質を上げる方向に寄っています。CRMはメール・通話・会議の記録を自動で取り込み、手入力に頼らない形になりました。見込み客を探すProspecting Agentは40を超える購買シグナルを追い、購買に関わる人のまとまり(バイインググループ)を組み、個別のメール案を書きます。商談の進行を支える機能は、会話の文字起こしを読み、CRMを更新し、追客メールの下書きまで作ります。

HubSpotが示した数字と、その読み方

HubSpotは効果の数字も出しています。diginomicaによると、Growth Contextを使うProfessional・Enterpriseの顧客は、AIを使わない顧客に比べてMQLが3.6倍、受注が3.2倍でした。CMSWireも、商談の作成が約2倍、受注が約3倍という同社の説明を伝えています。

ただし、これは使っている顧客と使っていない顧客の比較です。もともと運用が進んだ会社ほどAIも使う、という逆向きの関係も含まれます。数字は「文脈を整えた会社は成果が出ている」という傾向として読むのが妥当でしょう。

最高製品技術責任者のダンカン・レノックス氏は「顧客はどのAIツールを使うかを考えたくない。欲しいのは成果だ」と語っています(CMSWire)。成果に直結させるために、エージェントの数を増やすより、エージェントが読む情報を厚くする。今回の発表は、その判断として読めます。

なぜ文脈が勝負どころになったのか

エージェントの基盤になる言語モデルは、どの製品もほぼ同じものを使えます。差が出るのは、そのモデルに何を読ませるかです。自社の顧客像、競合、売り方を知らないエージェントは、一般論のメールしか書けません。

HubSpotにとっては、CRMに蓄えたデータが強みになります。顧客がすでに入れている情報を、そのままエージェントの材料にできるからです。

diginomicaの筆者は冷静な見方も添えています。Growth Contextを整えて保ち続けるには、継続的な手間がかかる。競合の製品も同じような文脈をエージェントに渡しているはずで、決定的な差別化になるかは分からない。Breeze Assistantはこまめに質問してくるため、人が方向を示し続ける必要がある。手放しで任せられるAIを求める人は、まだ待つことになる、という評価です。

日本の事業責任者が、明日考えること

売上10〜100億円規模のBtoB事業で、SFAやMAを入れたのに使いこなせていない。その原因の多くは、ツールではなく中に入っている情報にあります。活動記録が残っていない、顧客の属性がそろっていない、理想の顧客像が文書になっていない。この状態でエージェントを足しても、読む材料がありません。

まずは、Context Homeの項目を自社の点検表として使ってみてください。理想の顧客像、ペルソナ、競合、製品ごとの強み、売り方。それぞれ、今すぐ渡せる文書があるか。ないなら、それを書くことがAI活用の最初の仕事です。HubSpotを使っているかどうかは関係ありません。

次に、活動記録の取り方を見直します。営業の手入力に頼る限り、CRMの情報は欠けます。メールや会議の記録を自動で取り込めるなら、そこから始める価値があります。

最後に、文脈を保つ担当を決めます。競合も製品も顧客像も、半年たてば古くなります。誰がいつ見直すのかを決めておかないと、エージェントは古い情報のまま動き続けます。エージェントを選ぶ前に、エージェントに読ませる情報の持ち主を決めてください。